催眠強盗(事件編)


 
 行に出ると、必ずと言っていいほどトラブルが待ち構えている。
それは決して私が旅行に対して無防備であると言う事だけにとどまらず、
ある意味で旅行者の宿命と言っても過言ではないのかもしれない。
旅行中のトラブルをかなり警戒し、あらん限り武装して旅行に望む人も少なくない。

 れは冬のヨーロッパでの出来事。

 は閑散期となるために、定期便のバスが運行されないと言う事もしばしば起こる。
当時私がいたのは中世の都、チェコのプラハである。
チェコからポーランドへ移動するために、私はユーロラインという会社を訪れていた。
読んで字のごとく、ヨーロッパ中のバス路線を網羅している会社で、
私も例に習いポーランドのクラクフ行きのチケットを買い求めるためだった。
しかし、冬季運休とのこと。

 方がないので、夜行列車で当地を目指す事にした。
以前から夜行列車は気をつけたほうがいいということを色々な人から聞いていたので
なるべく一人になる事を避けて、私はある旅行者風情の人に声をかけた。
「ここに座って一緒にクラクフまで行っていいですか」
そのときに私が駆使した英語である。
何箇所か停車したが、誰も乗り合わせてくることもなく国境ポイントに到着した。
しっかりスタンプを押してもらい、ようやく我々はポーランドに入国する事に成功した。

 の直後、眠ってしまったようだった…。

 がつけば、目的地であるクラクフ駅に到着しており車掌に起こされていたところだった。
私は隣で寝ていたラファエロ(ブラジル人)を起こして、慌てるようにして外に出た。
しかし、ラファエロが電車から降りた後、御互いのズボンが破れていることを指摘した。
「しまった…」
そう思った私は、駅のプラットホームで堂々と座り込み、全ての荷物をチェックすることにした。
もちろんラファエロも私と同様の行動をとる。
すると私の財布が空っぽになっており、カバンに入れていたデジカメがなくなっていた。
ラファエロもデジカメとデジタルビデオカメラの2つをとられていた。
「いつ、どこで…」
彼らはどうやってカーテンがかかっていた客車に外国人である私たちがいると気づいたのか。
そして、私たちが起きることなく強盗に遭ったのはどうしてだろうか。

 かし、その2つの疑問はすぐにラファエロによって解決されたのだ。
彼はブラジルで警察官をしているエリートで、
休暇で奥さんに会いに来たついでにここポーランドを訪れていた。
「Sleeping Gas」
彼のその言葉で私も全てを理解した。
車掌もグルだったということしか考えられない。
国境審査官が部屋にやってきてスタンプを押した時しか、私達はドアをあけていない。
つまり、その時に通りがかった人ないしは車掌が犯人グループに密告したに違いない。
そして、揺れる車内で現地到着まで一度も起きなかった事から察するに、
催眠ガスであるという彼の見解を疑う要素は見当たらなかった。

 う、探してもないものである。
私は悔しさのあまり涙する彼を慰めながら駅を去った。
 
















100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!